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 不充分ではありましたが、私が漸く外部の方にお話をできるようになった約1年前、自区の行政関係者や議員にいろいろお願いに行きました。しかし、失語症の悲しさで説明に説得力がないのでしょうか一向に改善の兆候がありません。議員によっては失語症に理解する以前で失語症自体には知識が無いと思われる状態でした。
 どの病気の患者も同様にご自分の疾患の実質な内容は、健常者には理解し難いと云いますが、失語症の場合は自ら自分たちの主張を発信する能力が極度に損なっている事に由ると思っています。
 失語症の実態や今抱えている要求も、殆ど全てと言っても良い位健常者の代弁したものになります。ですから、失語症者がそれを読んたり見たりしても如何も心に迫るものがあまりありません。
 しかし、今回、上川あや 議員の質問を読みまして、現状を隈なく把握しており、通常ではお目にかからない、感性の豊かな視点を感じました。これは、失語症当事者としては驚きでした。
 ここに敬意を以って質問を掲示します。
  ◆三十七番(上川あや 議員 

まず初めに、失語症への区の対応について伺います。

失語症とは、脳卒中や脳腫瘍、頭部外傷などにより言語野を損傷し、その機能を損なうもので、高次脳機能障害の一つです。
脳卒中は我が国の死亡原因の第三位を占め、一命を取りとめた場合でも、その三割から四割に失語症が残ると言われます。
また、若年層では交通事故の後遺症から失語症となるケースが多く、国内の失語症者は五十万人に達するとの推計もあります。
失語症は、いつ、だれの身に起こってもおかしくない障害の一つなのです。

失語症では、話し言葉だけでなく、聞く、読む、書くのそれぞれに影響が残ります。耳は聞こえていても言葉の意味がわからない、目に見える文字や文章が理解できないといった症状から、言葉や文字のわからない外国に一人取り残された状態にも例えられます。
しかも、長期にわたりリハビリを行っても失語症を完全に治すことは困難で、家族との意思疎通などにも困難が残ります。
社会の理解や支援が乏しいために社会復帰も難しく、当人とご家族の苦悩は大変に深刻です。

社会生活や職業生活から見た失語症は非常に重い障害でありますが、その障害は外見にあらわれず、身体障害者手帳が交付されないケースも多いといいます。

言語障害と認められた場合においても、障害の等級は三級か四級にとどまり、障害に伴う困難が正当に評価されていないと言われます。障害に対応する行政の援護もほとんど制度化されておらず、事態の改善に向けた努力が求められます。

そこで、質問させていただきます。

第一に、区の行う相談・訓練事業についてです。
当区では、外郭団体の総合福祉センターを中心に、障害への相談、訓練を実施しています。
センターには複数の言語聴覚士が在籍し、失語症への専門的な訓練を実施していますが、具体の取り組みについてはほとんど広報されておりません。
区の相談窓口や総合福祉センターに、当人やご家族からの相談が寄せられて初めて紹介される内容となっており、有用な社会的資源があるにもかかわらず、必要とする方にそれが見えません。積極的に広報するべきです。

また、一定期間言語訓練が行われても、その後、どのように生活をすればよいのかについてのアドバイスがなく、失語症者の多くが困惑しています。
中長期的な視野に立った相談、指導の体制を整備するべきと考えます。それぞれ区のご見解をお聞かせください。

第二に、安心できる場所の確保についてです。
失語症に対する社会のサポートは乏しく、リハビリ後も失語症者の多くが職場や学業への復帰を果たせない現実があります。
自宅を中心にした生活を送らざるを得ず、自宅以外の居場所を求め、通常のデイサービスなどを利用しても、周囲とのコミュニケーションが難しく、結局その利用をやめてしまう場合が多いといいます。
家庭以外の居場所が少なく、家族との交流も困難です。

失語症の本質は孤独病であるとも言われます。
生きがいを見出し、ソーシャルスキルを向上させるためには、安心して参加できる場の確保が不可欠であります。
区内には、ふれあい・いきいきサロンを中心に六つの失語症グループが活動していますが、その開催頻度はいずれも月一、二回にすぎず、会場も梅丘のセンターに偏っています。
一定のエリアごとに居場所が確保されることが、社会性を高める上で重要であります。
居場所の拠点づくりに向けた工夫と努力を区に求めます。
ご見解をお聞かせください。

第三に、失語症者への就労機会の確保です。
失語症者が復職できる割合は八%にすぎないというデータがあります。
コミュニケーションの難しさと無理解が就労を阻む壁となっています。一方、失語症になっても、その人の判断力や記憶力、礼節ある態度、その人らしい性格に大きな変化はないといいます。
適切な援助があれば生かされる能力の多くが埋もれているのです。
区内で失語症者を主な対象とした作業所は岡本作業ホームの玉堤分場のみで、その定員は十九名にすぎません。
就労意欲に比べて、その受け皿は極端に不足しています。
失語症者の勤労意欲にこたえる区の処方せんをぜひともお示しください。

第四に、失語症者のコミュニケーションを補佐する会話パートナーの養成が必要です。
会話パートナーは、失語症者の悩みや特性を理解し、適切なコミュニケーションの橋渡しを行う人で、視覚障害に対応したガイドヘルパー、聴覚障害者に対する手話通訳や要約筆記に当たります。

日本では、有志の言語聴覚士が中心となり、二〇〇〇年からその養成が始まり、現在では行政の主体的な養成事業として、板橋区や横浜市、我孫子市などでもその養成が始められています。

当区では、総合福祉センターの言語聴覚士にこの会話パートナーの養成に精通したすぐれた人材がありながら、それを生かした取り組みには一切なっておらず、大変に残念です。
当区も積極的にすぐれた人材を活用し、会話パートナーの養成を図るべきと私は考えます。
区のご所見を求めます。

最後に、失語症にかかわる啓発についてお伺いします。
失語症に関する社会の理解はまだまだ不足しています。
失語症は、精神的なショックから声を失う失声や、運動機能の麻痺により、いわゆるろれつが回らなくなる障害としばしば混同されます。
失語症者に直接かかわる可能性の高い医療従事者や介護者においてさえ、言葉は話せなくても筆談はできるはず、五十音の文字盤を使えば意思の疎通はできるといった誤った理解が少なくありません。
失語症者の家族でさえ、障害を正しく理解し、有効なコミュニケーション手法を知る人は多くないといいます。

行政職員についても同様の問題があります。
区は各層に向けた啓発を積極的に展開するべきです。
区のお考えをお聞かせください。

続きまして、災害時のコミュニケーション支援について、聴覚障害に焦点を当て質問いたします。

区は現在、災害対策の総点検を実施し、来月初めの取りまとめを予定しています。
私も、さきのオウム問題・災害・防犯対策委員会において、その検討状況の中間報告をお受けいたしました。
いただきました資料によりますと、高齢者、障害者、子どもなど災害要援護者に対する支援が、重要な五本柱の一つに掲げられております。

しかし、その内容を見ると、障害者対応として挙げられているのは、災害当初の安否確認と避難所への誘導、介護事業者らと連携した訪問サービス、特養ホーム、障害者施設と提携した二次避難所の確保やショートステイの実施となっています。

聴覚障害は、さきに質問した失語症と並び、コミュニケーションにかかわる障害でありますが、障害特性に応じた情報保障の取り組みについては何らの言及もありません。
阪神・淡路大震災では、当初有力な情報源であったラジオ情報が聴覚障害者に共有されず、情報の隔絶から強い不安を与える結果となりました。
また、避難生活での配給のアナウンス、罹災証明書の発行、仮設住宅の申し込みなど重要な情報の提供が音声情報に偏り、聾唖者の多くは、周りの状況を見て、わけもわからず行列に並ぶ結果になったといいます。

今回の防災対策の総点検に当たっては、聴覚障害に対応する情報保障についても十分な検証を行うべきです。
既に、新宿区や足立区、港区などにおいて手話通訳者、要約筆記者との連携を裏づける協力協定の締結が進んでいます。
当区においても、手話通訳、要約筆記者の団体、グループとの間に同様の仕組みづくりを進め、災害時への備えを図るべきであります。
本提案に対する区のご見解をお伺いいたしまして、壇上からの質問を終わります。

  ◎
亀田 在宅サービス部長 

失語症者へのさまざまな支援につきまして、六点ご答弁をいたします。

まず、区で実施しております言語訓練等について積極的な広報をというご質問でございますが、失語症は交通事故や脳血管障害等により、言葉をつかさどる脳の一部に障害が生じて発症するもので、会話が困難になる場合や文章の読解が困難になる場合など、さまざまなものがございます。
現在、総合福祉センターにおきましては、身体障害者デイサービス等を通して、言語聴覚士による専門的な相談やリハビリに取り組んでおります。
平成十七年四月一日現在、言語聴覚士は常勤一名、非常勤九名の合計十名で対応しております。
ご指摘のとおり、必要な方々にこれらの相談訓練を利用していただけるよう、広く周知していく必要がございます。
「障害者のしおり」はもとより「区のおしらせ」やホームページ等を活用して、区民の方々へ周知してまいります。

二点目でございますが、この言語訓練を終了した後どのような生活をすればよいかについても専門的なアドバイスが必要ではないかというご質問です。
失語症の方のリハビリが終了した後の生活上のアドバイスにつきましては、訓練当初から訓練後の生活のありようをも想定いたしまして、相談やリハビリを行っているところでございます。

一方、失語症者の方々の機能の十分な回復には長い年月を必要とし、一定の訓練終了後の生活にも継続的な支援が必要な場合も少なくございません。
このため、訓練を終了した当事者の方々がつくる自主的グループ活動に言語療法聴覚士などの専門スタッフがかかわることにより継続的なアドバイスができるよう検討してまいります。

三点目の、安心できる居場所の確保についてでございますが、リハビリ等を終えた失語症の方々が集い、生活上の悩みや社会復帰に向けて話し合い、相互に励まし合うことは必要なことでございます。
また、リハビリが終了した以降も、社会復帰を果たすまでの間につきましては、援助者などのサポートが欠かせません。
そのため、失語症を含めました高次脳機能障害の方の受け入れを行っている施設や当事者の自主グループ、家族会等とも連携を図りながら、リハビリ終了者や既に社会復帰を果たした方々が時に集いながら相互に活力を得る居場所づくりにつきまして検討してまいりたいと考えております。

次に、勤労意欲にどうこたえるのか、失語症を主たる対象とした区内作業所は一カ所である、勤労意欲とその能力に比して就労の場は限られている、区の対応はというご質問でございます。
失語症の方々は、障害発症以前にさまざまな職業経験のある方も多く、就労の問題につきましては当事者の生きる意欲にどうこたえていくかという大切な問題です。
お話しのように、現在、岡本福祉作業ホーム玉堤分場等の身体障害者通所授産施設が失語症者を受け入れております。
個々の失語症者がその能力を活用して生き生きと働くためには、失語症の方の意欲に加え、失語症の症状や失語症の方の抱える悩みにつきまして、区民や事業者等周囲の理解を促進しながら、柔軟な就労形態の中でその意欲にこたえていくことが大切です。
区は、総合福祉センター等で一時的な相談を受けるとともに、今後も東京都障害者職業センター等の公的機関やNPOなどの就労支援・生活支援団体等と連携を図りながら適切な就労支援を行っていきたいと考えております。

次に、会話パートナーの育成についてでございますが、会話パートナーとは、ご案内のとおり、失語症のさまざまな症状を理解しまして、失語症にある人たちの不自由なコミュニケーションを補いながら、周囲の方や社会との仲立ちをする人のことと考えております。
ご指摘のように、専門的な言語聴覚士による訓練だけではなく、失語症者の生活上のさまざまなニーズに十分に対応することが必要でございます。

家族や周囲の方々が失語症への理解を深め、ともすれば孤立しがちな失語症の方々を周囲で支えていくことが必要であると考えております。
また、区内にも、失語症支援を目的として活動しているグループも会話パートナーの役割を果たしております。
今後も、総合福祉センターやこれらの活動グループ等と連携を図りながら、会話パートナーの養成を含めて失語症への理解普及に努めてまいります。

最後に、失語症者の啓発活動につきまして、身近な家族、医療関係者、区の職員にすら十分な知識があるとは言えない、社会的啓発をどう図っていくかというご質問でございます。

失語症に対する理解を深め、適切な援助技術を習得するため、現在、ヘルパーやケアマネジャーを対象といたしまして、総合福祉センターにおいて年四回、基礎編二回、応用編二回、研修を実施しております。
地域における障害者理解の促進は、ノーマライゼーションプランの大きな柱の一つでございます。
今後もさまざまな機会を通じまして、障害者への理解普及、啓発に努めてまいりたいと存じます。
以上です。

  ◎
室星 危機管理室長 

私の方からは、聴覚障害者の方々に対する災害時のコミュニケーション支援、災害時協力協定を締結してはどうか、こういうご質問にお答えいたします。

聴覚障害者の方々は、日常生活を送る上で手話や筆談などさまざまなコミュニケーションの手段を確保されておりますが、災害時の混乱している状況の中では情報の収集が困難になることが想定されます。

区では現在、聴覚障害者の方々に対する災害時の対策として、障害者団体と協働し、聴覚障害者のための防災手帳の作成を行っているところです。
また、災害時区民行動マニュアルでは、聴覚障害者の方々などに対する対応について区民の皆様に広く啓発するなど、自助及び共助による災害時の対応に取り組んでおります。
今後とも、区といたしまして聴覚障害者の方々に対する災害時の情報提供の仕組みづくりに向け、手話通訳者や要約筆記者などの団体、グループとの協力協定の締結についても検討してまいります。

以上でございます。

  ◆三十七番(上川あや 議員 

それぞれ前向きととれるご答弁、ありがとうございました。
実際的な変化を期待しています。

一点、再質問いたします。

失語症に対する啓発に関してですが、ご答弁では、さまざまな機会を通じて啓発を図るとありました。
私は質問通告の中で、職員の理解不足ということについても挙げていますが、ご答弁は区の職員に対しても働きかけを強めていただけるということで理解してよろしいのでしょうか。

  ◎
亀田 在宅サービス部長
お話にございましたように、区の職員の一人一人が失語症に対する理解を深めることが大切だと考えております。

今後、さまざまな機会をとらえまして、保健福祉領域の職員にとどまらず、研修調査室等とも連携いたしまして広く職員全体に普及啓発を図ってまいりたいと考えております。

以上です。

  ◆三十七番(上川あや 議員 

ありがとうございます。よろしくお願いします。
失語症について、在宅サービス部からご答弁はいただきましたが、これは全所管が注意していただきたいと思っているんです。

例えば、お子さんが学校からお知らせのプリントを持ってくる。
失語症者の方はそれを理解できないということもあると思います。各所管の窓口に失語症の方が行って要件を満たすということは難しい、あるいは「区のおしらせ」を見ても理解は難しいと思います。
失語症はコミュニケーションの障害です。

つまり、その方だけの問題ではなくて、そのコミュニケーションを図る我々の問題だということを認識した上で、それぞれ職務に生かしていただく、何ができるのか考えていただくということを切にお願いいたします。


06.2.27
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