第2回脊髄再生研究促進市民セミナー

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第2回脊髄再生研究促進市民セミナー

11月10日(日)午後1時〜4時半 後楽園会館(労災保険会館)

主催:日本せきずい基金  <連合・愛のカンパ助成事業>
講演:「米国における脊髄再生研究の展望」<通訳あり>

ワイズ・ヤング(Wise Young, Ph.D., 米国ラトガーズ大学
Keck Center for Collaborative Neuroscience Rutgers University)
クリストファー・リーブ財団の科学委員会の一員であり、米国における脊髄再生研究の動向に精通しているワイズ・ヤング博士を招き、最先端の状況とその展望を伺います。


 「幹細胞による神経再生戦略」

本望 修 (札幌医科大学・脳神経科学)

 3種のヒトの幹細胞(成人脳・胎児脳・成人骨髄由来)を脊損マウスに注入し機能回復をみた研究報告や、神経再生医療の可能性について伺います。

報告:ジェイン・ベネット(英国 Aspire National Training Centre)
Aspire :Association for Spinal Injury,research , rehabilitation, and integration  原義は「(高遠なものを)望む」こと。

<連合・愛のカンパ助成事業・入場無料>

《スケジュール》
13:00 受付開始 〜 13:30 開会挨拶
13:35 J.ベネットさん(英国の障害者の生活、Aspire の紹介)
13:45 本望先生講演(〜14:30)  <10分間休憩>
14:40 ヤング氏講演(〜16:00)  <10分間休憩>
16:10 質疑応答(〜16:40)

【資料集・目次】

 <頁>

 【講師紹介】

 ワイズ・ヤング (Wise Young, Ph.D., 米国ラトガーズ大学)
 Keck Center for Collaborative Neuroscience Rutgers University
クリストファー・リーブ財団の科学委員会の一員であり、米国における脊髄再生研究の動向に精通しているワイズ・ヤング博士を招き、最先端の状況とその展望を伺います。


 本望 修 (ホンモウ オサム 38歳、札幌医科大学・脳神経科学)
1.最終学歴
平成元年 北海道立札幌医科大学医学部医学科卒(学位: 医学博士)
平 8年  日本脳神経外科学会専門医

2.職 歴
平 元年 札幌医科大学・医学部・付属病院・脳神経外科
平 3年 米国ニューヨーク大学・メディカルセンター・脳神経外科・研究員
平 4年 米国エール大学・医学部・神経内科、神経科学・神経再生研究所・研究員
平 7年 米国エール大学・医学部・神経内科、神経科学・神経再生研究所・講師
平 7年 札幌医科大学・医学部・脳神経外科学・助手
平 12年 札幌医科大学・医学部・脳神経外科学・講師

3.所属学会
日本脳神経外科学会 ・ 日本脳神経CI学会
Society for Neuroscience (USA) 学会 ・日本再生医療学会、ほか

4.学術賞
札幌医科大学学術振興会助成 (1996年)
日本心臓財団研究奨励(1999年)
北海道老年医学研究協会研究助成(2000年)
かなえ医薬振興財団研究助成(2000年) 
藤田記念医学研究振興基金研究助成(2000年)
日本脳神経外科コングレス感謝状(2000年)  
日本分子脳神経外科研究会感謝状(2000年)
日本分子脳神経外科研究会感謝状(2001年)
第二回バイオベンチャービジネスコンペ審査委員特別賞(2001年)



<概要>

 再生医学の最近の動向

  −幹細胞を用いた再生医学について−
文部科学省 科学技術政策研究所 科学技術動向研究センター ライフサイエンス・医療ユニット 蛯原弘子、茂木 伸一

 1 はじめに  
 第2期科学技術基本計画(平成13年3月閣議決定)において重点分野の一つとしてライフサイエンス分野があげられており、この中で、国家的・社会的課題に対応するため重点的・戦略的に取り組む課題の中の一つとして再生医療が取り上げられている。また、再生医学・再生医療を巡る生命倫理に関する議論も総合科学技術会議等各種審議会等で活発に行われているところである。

 このような状況を踏まえ、再生医学・再生医療の最近の動向、特に幹細胞を用いた再生医学について、平成13年9月12日に行われた京都大学大学院医学研究科西川伸一教授による科学技術政策研究所所内講演会の内容に我々の調査を加えて、本特集をまとめた。なお、本稿では、「再生医学」を、研究と治療(「再生医療」)の両方を含むものと位置付けている。

 2 再生医学の可能性の拡大  
 再生医療については、これまで皮膚移植、骨髄移植等のほかパーキンソン病患者の脳へのドーパミン産生細胞の移植等が行われてきた。しかし、それぞれの移植組織は極端に不足している。

 それらを解決する方策の一つとして、幹細胞の利用があげられる。幹細胞とは、自己複製により、自身と同じ能力を維持することが可能で、また複数種類の前駆細胞並びに分化細胞に分化することも可能な能力を持つ細胞のことである。

 このうち、一定の組織・器官に分化する能力を持つとされる体性幹細胞と、あらゆる組織・器官に分化する能力を持つ胚性幹細胞は、将来的には移植用の細胞、組織、臓器の作成を通じて医療に貢献することが期待されている。さらに、クローン技術と組み合わせ、個人別の拒絶反応のない臓器を作る可能性も示唆されている。

 なお、二種類の幹細胞のうち、胚性幹細胞については、受精してできた初期胚を滅失することにより初めて樹立されるものであることから、これを用いた研究・医療については、生命倫理の面から特に慎重な議論が行われている。本特集の内容は図表1に示した。

図表1 本特集の構成 本特集で取り上げた内容
@ 体性幹細胞及び胚性幹細胞を用いた再生医学研究の進展(第3章)
A 再生医療と医療費との関係(第4章)
B 再生医療の拠点形成の意義(第5章)
C ヒト胚性幹細胞研究に関する生命倫理の問題(第6章)
D 科学界の知識と社会が共有できる知識との関係(第7章)

 3 再生医学研究の進展
 ポストゲノム時代を迎えた現在においても、生きた細胞を作ることはできない。少なくとも、生きた細胞が必要な治療には、生きた細胞を使わなければならず、現在でも輸血や骨髄移植は、それに代わる治療法がない。 現在、細胞欠損、組織損傷による障害に対する再生医療として細胞移植の可能性は拡大する方向にあるが、これらに用いる細胞は絶対的に足りない。試験管の中で目的の細胞が調整できれば、細胞の不足を補うことができる。こうした中、細胞治療の広がりを約束する新しい知見や技術が誕生している。具体的には次のような研究が進められている。

図表2 体性幹細胞を用いた神経機能回復治療
神経幹細胞を脊髄へ移植
        ↓
   神経軸索の再生
        ↓
   障害細胞の再生
        ↓
   神経機能の回復

(科学技術動向研究センターで作成)


 3.1 体性幹細胞に関する最近の研究

(1)パーキンソン病治療に向けた研究
 パーキンソン病は、脳の黒質の細胞が死滅していくことで現れる病気であるが、こうした患者に対して胎児の脳細胞を投与して失われた細胞を補う治療が試みられている。しかしながら、ひとりの患者に対して数個体の胎児が必要であること、胎児の脳細胞の中から特定の細胞だけを抽出して投与することは技術的問題から困難であることから、現状においては、一般的な治療法として定着していない。

 こうした中、多くの大学や企業等で、モデルマウス系を用い、パーキンソン病を治す神経細胞になる細胞に特異的に存在するタンパク質(マーカー)の探索研究が進んでいる。今後、マーカーを利用して治療に必要な細胞だけを大量に取り、それを注射して治すという医療に結びつくものと期待されている。

(2)損傷した神経機能の回復に向けた研究
 慶應義塾大学医学部の岡野栄之教授のグループでは、脊髄(頚髄)損傷モデルラットを作成し(前肢の動きが低下する)、脊髄損傷部分に神経幹細胞を移植したところ、神経細胞等が分化し、神経ネットワークが再構築され、前肢を動かす機能が回復することを示した(図表2)。

(3)分化した細胞の可塑性に関する研究
 骨髄血液幹細胞が神経・筋肉・肝臓の幹細胞にそれぞれ分化することができることと、神経または筋肉の幹細胞が骨髄血液幹細胞に分化することができることが、これまでに明らかになっている(図表3)。

図表3 骨髄血液幹細胞の可塑性
       神経幹細胞

       骨髄血液細胞

筋肉の幹細胞    肝臓の幹細胞

西川教授の資料より科学技術動向研究センターで作成


 特定の幹細胞を種類の異なる幹細胞に再プログラムできる可塑性があることを利用して、試験管内で目的の細胞を調整することができるようになれば、疾患の治療において体性幹細胞の利用価値が高まると期待される。


 3.2 胚性幹細胞に関する最近の研究

(1)胚性幹細胞の樹立
 ヒト胚性幹細胞(ES細胞:Embryonic Stem Cell)の樹立(平成10年、米国ウィスコンシン州立大学及びGeron社)は再生医療に大きなインパクトを与えた(図表4)。

図表4 ヒト胚性肝細胞の樹立
(改変)

4細胞期 ⇒ 培養胚盤胞

⇒ マウスフィーダー(培養)細胞

⇒ 新しいフィーダー細胞 ⇒ ヒト胚性幹細胞

 原図は NIH reports Stem Cells H13年6月の図。


 胚性幹細胞に関する研究は、主にマウスと霊長類(アカゲザル、マーモセット)を用いて進められている。マウスの胚性幹細胞株が樹立され発表されたのは昭和56年、アカゲザルは平成7年、マーモセットは平成10年である。

 ヒト胚性幹細胞に関しては前述したように平成10年に初めて樹立された。これまでに世界で64株のヒト胚性幹細胞が樹立されている(図表5)。
図表5 ヒト胚性幹細胞株の数
研究機関名称(国名) NIHに報告された
ヒト胚性幹細胞株数
Goeteborg University(スウェーデン) 19
CyThera, Inc.(米国) 9
Reliance Life Sciences(インド) 7
Monash University(オーストラリア) 6
Karolinska Institute(スウェーデン) 5
Wisconsin Alumni Research Foundation(米国) 5
BresaGen, Inc.(米国) 4
Technion-Israel Institute of Technology(イスラエル) 4
National Center for Biological Sciences(インド) 3
University of California(米国) 2
合 計 64

西川教授の資料より科学技術動向研究センターで作成

(2)胚性幹細胞を用いた研究の課題
 胚性幹細胞は試験管内で神経細胞や筋細胞、血液細胞、インスリン分泌細胞等様々な細胞に分化する多分化能を有することが分かっているが、どの細胞に分化するかを制御する機構については現在研究の途上にある。

 今後の課題としては、胚性幹細胞を目的の機能を有する細胞に分化させる誘導因子の探索、未分化の細胞や様々に分化した細胞の混合物から目的の細胞だけを抽出する技術の開発、分離した細胞を生体外で効率的に増殖させる技術の開発などが挙げられる。

 最近のマウス胚性幹細胞に関する研究成果として、ある転写因子(Oct-3/4)が未分化状態の維持に関わっていることが分かっている。また、京都大学再生医学研究所の笹井芳樹教授のグループでは、SDIA(stromalcell-derived inducing activity)法という手法を開発し、試験管内で、マウス胚性幹細胞からパーキンソン病を治すドーパミン産生神経細胞へ高頻度に分化誘導し、培養することに成功している。


 4 再生医療と医療費との関係

 一般に、再生医療等の高度医療の普及は医療費増大につながると懸念されているが、再生医療が必ずしも医療費の増大にはつながらないことを示す事例もある。

 米国NIH(国立衛生研究所)のロン・マッケイ氏は、マウスを用いて、胚性幹細胞から膵臓細胞を分化誘導して皮膚に注射することによって、糖尿病の治療をすることができるという手法を開発している。(この手法の中で、胚性幹細胞から膵臓細胞に分化誘導していく過程を完全に制御することができないことが問題となっており、さらに研究が必要とされている。)

 膵臓でインスリンを生合成することができないT型糖尿病の患者は15歳未満に発症することがほとんどで、一生インスリンを打ち続ける必要がある。もし1回だけの細胞注射でT型糖尿病を完全に治すことができれば、医療費は削減されると考えられる。このことから、再生医学が医療に応用されることは医療費増大に必ずしもつながらないと考えられる。

 今後、各方面で、再生医療と医療費との関係について議論が進められるものと予想される。


 5 再生医療の拠点形成の意義 

 5.1 米国ピッツバーグの例
 医療産業の都市として成功した例として米国のピッツバーグがあげられる。米国の肝臓移植のうち半数がピッツバーグで行われている。臓器移植センターを中心に医療、教育等が提供され、臓器移植を含む幅広い分野でサービス産業が発達した都市になっている(図表6)。

図表6 ピッツバーグにおける生体組織工学産業の発展
ピッツバーグの再生医療関連企業群
企業数 26
市場資本価値(推定) 43億ドル
年間総売上高(推定) 7.74億ドル

 ※市場資本価値(推定)
= Total market capitalization or valuation (estimated)Pittsburgh Tissue Engineering Initiative が2000年に行った調査の資料http://www.pittsburgh-tissuenet/Industry/pdf/industry.pdf をもとに科学技術動向研究センターで作成。

 ピッツバーグが成功した要因には、@鉄鋼産業が衰退したことによって地域経済を何とか再生しなければいけないという地域の強い意思があったことと、A知的インフラがあったことがあげられる。(例えば世界的に知られた移植医であるStarzl氏がおり、日本の移植医もほとんどここへ行って習っている)。


 5.2 わが国の動向 〜大阪圏における拠点形成〜

 大阪・神戸圏には、生理活性物質研究・発生学研究・再生医学研究・移植医療・クローン研究・組織工学研究等のトップクラスの人材を擁する大学や研究機関、企業が存在しており、神戸を中心とする医療産業都市構想が打ち出されている。

 この事業は、科学技術振興事業団による地域結集型共同研究事業の一つとして平成12年度から5年間の受託事業となっており、再生医療の総合的技術基盤を開発することを目指している。

 現在、中核となる先端医療振興財団・先端医療センターや理化学研究所発生・再生科学総合研究センター、独立行政法人産業技術総合研究所ティッシュエンジニアリングセンター、京都大学再生医学研究所、京都大学探索医療センター、大阪大学未来医療センター、その他関係病院等の施設が連携を図りつつある中、今後はこの連携体制を上手く機能させ続けることが課題である。

 さらに、図表7に示した施策が、大阪圏におけるライフサイエンスの国際拠点形成にむけて進められている。


図表7 大阪圏におけるライフサイエンスの
     国際拠点形成にむけた施策


(1) 大阪北部地域及び神戸地域における集積拠点の形成研究機能の強化、企業化支援等に必要な施策の集中実施

(2) 両地域をはじめとするライフサイエンス集積拠点の相互連携強化産学官連携による推進体制の整備、高速大容量の情報ネットワークの構築等

(3) 関係各省等による協議の場を設置し、総合的な支援を集中的に推進


 6 ヒト胚性幹細胞研究に関する生命倫理の問題

 わが国を含む医療先進国では、前述したように、胚性幹細胞の医療への応用に対する期待が高い。しかしながら、生命倫理の側面から、胚性幹細胞に関する研究への取り組みについては、各国で慎重に議論が行われている。

 ヒト胚性幹細胞は、受精後、胚盤胞期まで発生が進んだ胚の内部細胞塊から作成されるものであるため、受精してできた初期胚を滅失するという手順を必ず踏まなくてはならない(図表4)。

 したがって、滅失すると決定されたヒトの初期胚は細胞の集合体にすぎないという考え方と、受精の瞬間から、あるいは胚のある一定の段階から人間であり、それを人為的に滅失するものであるという考え方とが存在する(図表8)。

図表8 ヒト胚とはいかなる存在なのか?
減失すると決定された
ヒト初期胚は、細胞の
集合に過ぎない。
ヒト初期胚は私たち
人間と変わらない
存在である。

 ここで重要となるポイントは、適切な意思決定システムを構築することである。例えば、研究者は社会に対して十分に情報を開示すること、多様な価値観を持つ者が互いの違いを認めつつ議論しあうプロセスを持つこと、その上で一定のルールを作ること等である。このうち、研究者が社会に情報を開示することについては次章でふれる。

 わが国において、ヒト胚性幹細胞の研究に関する生命倫理について初めて検討されたのは、科学技術会議生命倫理委員会の下に設置されたヒト胚研究小委員会においてであった。ここで、ヒト胚性幹細胞を始めとするヒト胚を対象とする研究における生命倫理の側面からの検討が行われ、平成12年3月に「ヒト胚性幹細胞を中心としたヒト胚研究に関する基本的考え方」を取りまとめた。

 その中でヒト胚性幹細胞の樹立については、人の生命の萌芽としてのヒト胚を用いるという点から慎重に行うべきであり、ヒト胚性幹細胞についてその恩恵とヒト胚を滅失するとの問題点を考慮し、厳格な枠組の下であれば認めることとした。使用については、ヒト胚性幹細胞が濫用されれば、いたずらにヒト胚の滅失を助長することにつながりかねず、樹立に際しての慎重な配慮を無にする結果となり得る可能性があり、また、あらゆる細胞に分化できる性質をもっていることから、倫理上の問題を惹起する可能性があるため、一定の枠組を整備する必要があることとした。

 ヒト胚性幹細胞の臨床研究については、医療行為の安全性という観点からの検討が必要とされ、臨床利用に関する基準が定められるまでは、人個体へのヒト胚性幹細胞及びその分化した細胞、組織等の導入による臨床研究は認められない、とした。

 この「ヒト胚性幹細胞を中心としたヒト胚研究に関する基本的考え方」を受けて、文部科学省は「ヒトES細胞の樹立及び使用に関する指針について」案を作成し、パブリック・コメントを募集した。その後、平成13年4月に案は総合科学技術会議に諮問され、下部組織である生命倫理専門調査会を中心に検討が重ねられ、平成13年8月に答申が提出された。

 平成13年9月25日に文部科学省より「ヒトES細胞の樹立及び使用に関する指針」が施行された。この中で、ヒト胚性幹細胞の取扱いに関しては、人の尊厳を侵すことのないよう、誠実かつ慎重に取扱いを行うものとされた。また、その樹立及び使用は、当分の間、基礎的研究に限るものとされた(第2条第2項より)。併せて、医療に用いるための医薬品の製造や、医薬品の毒性検査等に用いるためのヒト胚性幹細胞の大量供給など医療関連分野への使用も現時点では行わないこととした。

 主要先進国におけるヒト胚性幹細胞を巡る動きについて、図表9にとりまとめた。
西川教授の資料より科学技術動向研究センターで作成
図表9 ヒト胚性幹細胞を巡る各国の動き
国 名 年 月 ヒト胚性幹細胞を巡る動き
日 本 H13年9月 ヒトES細胞の樹立及び使用に関する指針により、ヒト胚性
幹細胞の樹立及び使用は、当分の間、基礎的研究に限る。
ドイツ H2年1月 胚保護法により、ヒト胚研究は全て禁止されている。
イギリス H13年1月 ヒト受精・胚研究法により、人クローン胚からのヒト胚性幹
細胞の樹立が可能となった。
米 国 H13年8月 大統領令により、ヒト胚性幹細胞の使用研究に公的助成を認
めるが、新たなヒト胚性幹細胞の作成を認めない。
フランス 生命倫理法により、観察以外のヒト胚研究は禁止されている。
余剰胚からのヒト胚性幹細胞樹立を可能とする法改正案を
議会に提出予定。

科学技術動向研究センターで作成



 7 おわりに 

 これまで科学者は、科学的知見により得られた知識を生産して社会に提供してきた。その科学的知見に基づく知識の社会への還元は、社会がその知識を「頼りになる知識」すなわち社会的に信用され得る知識として受け入れ、最終的にはその成果が生産物になって社会に貢献するという形で行われてきた。 今後は、特に再生医学研究においては、科学的知見に基づく知識を社会に対して透明性高く公開し、それらの知識から賛成、反対、中立等様々な判断をする社会と対話を繰り返すことにより、「社会が共有できる知識」を形成できるかどうかが、課題となっている(図表10)。

 また、個々の研究機関とは別に、一般に誰でも利用できるような生命科学の情報機関を設立し、そこから、必要な情報が一般の市民にもわかりやすい形で常に出ていくという形態が望ましい(図表11)。(例えば理化学研究所発生・再生科学総合研究センターでは、機関内審査委員会(IRB : Institutional Review Board)において、生命倫理のいろいろな問題を議論するだけではなく、研究所外部の立場にたって研究所活動の社会への情報開示のあり方を検討している。)


図表10 科学界の知識が社会共有の知識となる過程の変化
                 <略>

図表11 科学界の知識と社会共有の知識となる過程の変化



 生命科学者には積極的な情報開示が求められる

1.科学者の自覚と積極的な社会への情報公開 
 ・マスメディア、経済人、法曹人による現場研究室への留学制度
 ・サイエンスコミュニケーションの充実

2.誰でも利用できる生命科学情報機関の設立

西川教授の資料より科学技術動向研究センターで作成


【謝辞】 本稿は、科学技術政策研究所において平成13年9月12日に行われた京都大学大学院医学研究科西川伸一教授による講演会「再生医学の最近の動向−再生医学は何をもたらすのか−」をもとに、我々の調査を加えてまとめたものである。 本稿をまとめるにあたって、西川伸一教授には、ご指導をいただくとともに、関連資料を快くご提供いただきました。また、慶應義塾大学医学部岡野栄之教授、京都大学再生医学研究所笹井芳樹教授、河崎洋志助手には、貴重な関連資料を提供していただきました。文末にはなりますが、ここに深甚な感謝の意を表します。




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