再生医療の曙

NHKスペシャル「眠れる再生力を呼びさませ〜脳梗塞・心筋梗塞治療への挑戦〜」
2007年11月7日,夜22時
私はこのテレビ番組に出会ったとき、戦慄が全身に走りました。
 2007年1月、札幌医科大学附属病院脳神経外科で、日本で初めて自らの骨髄の細胞が持つ再生力を利用した新しい治療の臨床試験が行われ、脳梗塞で運動まひを抱えた患者が回復する経過をつぶさに、親切な解説を入れての報道でした。

 この報道には数多いメディアにあって流石NHKの公共放送の誇りと権威を感じたことはありませんでした。私は海外の友人に日本の文化を伝いたいという衝動を抑えることが出来ませんでした。優秀な頭脳で構築されて高度な研究・学術的薀蓄とチームの研鑽により集約された究極の医療機構を広く、分かり易く、一般に知らしめた功績は何ものにも代え難い貴重な実績です。
 こころから感謝します。

 内容を要約すれば

「患者本人の骨の中にある骨髄の幹細胞とよばれる細胞を使い、脳こうそくで傷ついた脳の神経を再生させる試みであり、番組では、左半身に運動まひを抱えた患者が、急速に回復する過程に密着。また、ドイツで心筋こうそく患者に骨髄の細胞による治療が行われ、スポーツができるまでに回復する姿を描き、再生力の可能性に迫る。」

 と云うことですが、それは2・6時中頭から離れられない私にとっては何事にも代え難い渇望していた主題です。

 通常、テレビの番組ですから動画が重要な役割を果たしますが、今回はアナンサーの説明で充分その主旨は理解できます。勿論、私は直接視聴する機会に恵まれたので、初めてこの番組に接したとき映像がない場合を言及するには無理があるかも知れません。

  


 早速本題に入ります。

  《内容は先ずこの再生力の解説から始まります。》

 2007年1月日本で始めての治療の臨床試験が札幌で始まりました。治療の対象は脳梗塞の患者です。脳の血流が途絶え神経細胞が傷つく病気脳梗塞。一命を取り留めても重い障害が残ることが多く、手あつい介護を必要となる病気の第一位になっています。これまでの治療法では一度傷ついた脳の神経細胞は元通りに出来なかったからです。

 ところが今回の新しい治療法では傷ついてしまった神経細胞の回復が出来ると云うのです。その鍵を握っているのは本来生き物がもっている再生力です。例えば、両生類のイモリ。前足を失っても僅か4ヶ月指まで完全に生えてきます。勿論、再生した前足は以前と同じように動きます。このイモリのもっているような強い再生は特別なものと考えられてきました。しかし、最新の研究で人間でもこれまで考えられていた大きな再生力があることが分かってきました。

 再生力が秘められていたのはこの赤い液体骨髄です。骨髄は骨の内部で主に血液を造る働きをしています。この骨髄が脳を再生する力をもっているというのです。

前足を失った両生類のイモリ
 左のイモリは前足を失っても、僅か4ヶ月指まで完全に生えてきます。
 両生類の再生力は人類に応用出来れば治療の分野は格段と広がります。
 まさに夢の医療です。

………………………………………………………………
 今までの常識がことごとく覆(くつ)がえされていくという毎日ですよねー。

 今回の治療を最前線に立って執行された医師:脳神経外科 本望 修 医師はは自らの研究成果を述懐されるように仰りました。それは私のような患者には、“神の声”に等しい響きがあります。

 本望 修 医師は後の説明で出てきますが、

 「本望医師は骨髄を使って脳を再生する研究する先駆者の一人です。10年以上かけてそのメカリズムを明らかにしてきました。本望さんが神経細胞の再生にとり組んだそのきっかけはアメリカエール大学との共同研究でした。研究を進めたところ傷づいた神経細胞を復活させる力のある幾つかの細胞があることは分かってきました。本望さんはなかでも骨髄細胞に注目します。」


本望 医師

  《以下具体的な項目を提示します。》

 骨髄の再生力を使った治療は体の様々の部分で試みされています。

 ドイツの例

 心筋梗塞になった男性の例を挙げている。

 「まさに自然治癒力です」

 「自分の体の中にあるもので治療し回復したなんて驚くべきことですよ。」

 いま、解き明かされるつつある私たち人間の本来もっている再生力、その力を使い今まで困難といわれた脳と心臓を再生する試みが始まっています。

 《続いて次の章で具体的な事例を表示します。》

  眠れる再生力を呼びさませ
  脳梗塞・心筋梗塞治療への挑戦〜

 北海道札幌市にある札幌医科大学附属病院は北海道の高度医療の中核病院の一つです。脳神経外科では脳梗塞をはじめ脳腫瘍や脳溢血など年間およそ500人の患者を治療しています。

 今年1月、脳神経外科:宝金 清博 教授が責任者になり脳梗塞の新しい治療法の効果と安全性を確かめる臨床試験を始めました。

 この臨床試験に参加できる患者は
 最大で50人、札幌近郊に在住、年齢20〜75まで、脳梗塞発症から3週間以内などいくつかの条件を満たした患者です。これまで根本的には直せないとされていた脳梗塞を患者自身の再生力で回復させようという日本で始めての試みです。

 今回の臨床試験について宝金教授は次の通り仰りました。

 「脳梗塞は、正直に言って、この10年間20年にものすごくいろいろの薬が出た。皆がいろいろ考えて。ところが実際には臨床では殆ど効かないという結果になって、少なくても今までの治療は落としたバーをクリアーできる可能性を、ひょっとすると、もっているかもしれないと思いますが…」

 また、この臨床試験の評価には

 「最悪の場合だったら、細胞が勝手気ままな行動をして腫瘍になってしまうとか、そう言うことが少ないが可能性があるので、2年位スパン長さでは見て頂かないといけないと思っています。」

 という所見を示しておられます。


宝金 清博 教授

 今回の臨床試験にあたり、本望医師、宝金教授はじめ医師団は次の論文を発表しています。

 脳梗塞に対する骨髄幹細胞移植による脳循環の改善

   札幌医科大学脳神経外科

本望 修、鵜飼 亮、原田邦明、宝金清博

【目的】 脳梗塞モデルラットに対し、骨髄間葉系幹細胞(MSC)を経静脈的に投与すると、梗塞巣の縮小化や神経機能の改善が認められることが知られている。急性期治療における作用機序として、脳神経保護作用や神経再生作用が考えられているが、脳血流に関する詳細な検討は報告されていない。今回、我々は、脳梗塞後1週間にわたり、penumbra、ischemic core、周囲脳組織の血流が、どのような経時変化を呈するか解析し、治療機序の解明を試みた。

【方法】 ラット脳梗塞モデルは中大脳動脈永久閉塞モデルを用いた。閉塞後、6時間、24時間、3日、7日毎に高磁場(7T)MRIを用いて、DWI、T2WI、PWI(rCBV)を撮影し、梗塞巣および周囲脳組織における脳血流を経時的に解析し、虚血によるダメージとの関連性を検討した。また、MSC移植群との比較解析を行い、治療効果を詳細に解析した。

【結果】 1)非移植群では、発症24時間後まで、全ての領域でrCBVの低下は進行したが、極期でも、penumbraおよびischemic coreのrCBVは、それぞれ約50%および約20%程度までの低下であった。また、発症3日〜7日の経過で、penumbraおよびischemic coreのrCBVは改善する傾向を示した。2)移植群では、発症3日〜7日の経過で、penumbraおよびischemic coreのrCBVは著明に改善した。

【結語】 ラット脳梗塞モデルにおいて、ischemic coreの脳血流は、極期においてもゼロにはならず、早期より改善傾向を呈したことより、細胞治療時の細胞デリバリールートとして体循環を利用する戦略が期待される。また、MSC移植治療により脳血流が著明に改善したことより、作用機序の一つに血管新生が関係していると思われる。



   《テレビの内容に戻ります》

 2月下旬この臨床試験に3人の患者が参加していた。

 その一人:登り口康彦 さん(52歳)

 札幌の建設会社、30年現場監督、2月4日(日)朝自宅で目を覚ましたとき左腕に痛みに襲われました。夜7時近くの病院に行くと脳に繋がる血管が詰まっていることが分かりました。詰まっていたのは首の右側、脳に大量の血液を送る太い動脈です。
 そのため登り口康彦さんの脳に充分な酸素と栄養が届かず、神経細胞は大きなダメージを受けました。脳梗塞でした。脳梗塞は3時間以内であれは薬で血流を回復させ神経細胞を救うことも可能です。登り口さんが病院に行ったのは12時間後でした。一命は取り留めたものの左半身に運動麻痺が残りました。



 ここで、『脳梗塞でした。脳梗塞は3時間以内であれは薬で血流を回復させ神経細胞を救うことも可能です。』と、然も(さも)当然のことのようにサラッと言っていますが、既に発症した多くの血管障害者にとっては、新しい情報です。
 私は“失語症を考え・語る.その3”に触れましたが、一部表示しますと

 “tPA(itssue plasminogen activator :組織プラスミノーゲン活性化因子)などという薬による静脈内投与で血流を再開させる方法が、日本でも、2005年10月11日に認可され、福音を齎すことになり…”、   

                                       となります。

 しかし、実際のところ、この治療には、医療施設、担当医、患者の体調等による諸条件による制約がありますから、必ずしもその恩恵を受けなれない場合がありますので、この今回の治療が既にその前提として考えられている点でこの治療の執行のレベルの高さを感じます。

 また、脳梗塞を一様に脳卒中と言うことが、医学の進んで現在では現状に馴染めない表現であることは、以前申し上げましたが、サッカーのオシム監督の病名を「急性脳梗塞」と紹介されていることから分かります。
 “
朝自宅で目を覚ましたとき左腕に痛みに襲われました。夜7時近くの病院に行くと脳に繋がる血管が詰まっていることが分かりました。”、という発症から受診までの時間間隔であるようですから今回の「登り口さん」の場合は卒中という表現は中らないでしょう。
 時間の経過を感じます。



    《テレビの内容に戻ります》 

 脳梗塞発症後1ケ月:直線状を真っ直ぐ歩けない。左半身に麻痺が残りバランス感覚が障害を受けている。左手には特に強い麻痺がありました。木の棒をシッカリと握れず、腕を前に出すことさえ難しい状態です。

 52歳の登り口さんは新しい治療法に懸け様と決心した。

 登り口さんの治療の担当者は脳神経外科 本望 修 医師

 2月21日:早速治療の準備が始まる。

 先ず、登り口さんの骨盤からある液を取り出します。

 この赤い液体は骨髄と呼ばれるものです。骨髄は骨の中に蓄えている液体でその中には血液を作る細胞や骨を作る細胞等様々な細胞が含まれています。この患者本人がもつ骨髄細胞を薬代わりに使おうというのです。

 本望さんは骨髄を使って脳を再生する研究する先駆者の一人です。10年前以上かけてそのメカリズムを明らかにしてきました。本望さんが神経細胞の再生にとり組んだそのきっかけはアメリカエール大学との共同研究でした。研究を進めたところ傷づいた神経細胞を復活させる力のある幾つかの細胞があることは分かってきました。本望さんはなかでも骨髄細胞に注目します。

 日々血液を骨髄の細胞は神経細胞を再生する力をもっているのではないか?

 本望さんはネズミで研究を始めました。

 骨髄は何種類もの細胞から出来ています。その細胞をもとに治療効果を試していったんです。これは脳梗塞で動けなかったネズミです。

 このネズミに骨髄のなかのある細胞を入れたところ大きな変化がありました。

 2週間後、運動麻痺を起していたネズミが元気に走るようになったのです。脳の内部を映した画像を見ると大きな変化が起こっていました。左が治療前、右が治療2週間後です。脳梗塞で神経細胞が傷づいて白く映っていた部分が小さくなっていました。脳の神経細胞が回復していたのです。

 本望さんがネズミの体内に入れたのは骨髄幹細胞と呼ばれる細胞です。詳しく調べるとこの骨髄幹細胞は脳の神経細胞を救う様々な働きを持っていることが分かりました。
 (この事;ネズミの実験ーについては後に触れたいと思います)

 骨髄幹細胞は弱った神経細胞のところにやって来ると神経栄養因子という物質を出します。これは神経細胞を元気つける働きを持っていて傷づいた神経細胞を回復させます。 

 また、骨髄幹細胞は血管新生因子と呼ばれる物質を出します。すると新たな血管が出来、酸素や栄養が補給され神経細胞が回復します。さらに、骨髄幹細胞は自ら神経細胞そのものに変身する事も分かって来ました。

今回始まった新しい治療法はこうした基礎研究を積み重ね開発されたものです。 

 臨床試験を始めるにあたり札幌医科大学では倫理委員会を開きました。既に、骨髄移植で骨髄を体内に入れる治療法の安全性は確認されています。また、患者本人の細胞を使うため倫理的にも問題がありません。そのため臨床試験の実施が去年8月認められました。 

 3月19日、いよいよ骨髄幹細胞を使った登り口さんの治療が始まります。

 倒れてから一ケ月半が経っています。

 本望医師:「座れます?」「今日これからもう少しで細胞治療が始まりますが、今の気持ちはどんな感じですか。」

 登り口さん:「直ると考えています。楽しみです」

 医師チームが登り口さんの脳の写真を撮り最終確認を行います。

 

医師チームが脳の写真を撮り最終確認

 

 上の画像がその脳の断面の画像です。
 白く見えるところが脳梗塞で神経細胞が傷ついる部分です。
 ここは左半身に運動の指令を伝える場所のため登り口さんは左手が思うように動かせません。
 画像で白く見える部分に変化が見られるかどうかに注目します。 

   登り口さんの体内に注入される骨髄幹細胞の用意

 登り口さんの体内に注入される骨髄幹細胞の用意されました。

 本望医師の用意したこの袋の中におよそ1億6千万個の細胞が詰まっているが、
 実は、治療に使う骨髄幹細胞は登り口さんの骨髄から取り出した細胞を培養して1万倍に増やしたものです。
 数を増やし体に戻した方が高い再生力が期待できるのです。

 午前11時体内に投与。

 投与には手術は必要ない。通常の点滴と同じ様に腕の静脈から少しつつ入れていく。

 骨髄幹細胞は血液に乗って全身を循環しその一部が脳梗塞の部分に到着し神経細部を再生すると期待しています。

 投与が無事終わりました。50分位で出来ました。

 運動麻痺が強いのでそれがどのように回復いていく様子を診ていきたい。

 5時間後、登り口」さんの脳の内部を見る画像検査が行われました。(MRIによる)

 そのときの事でした。

 「どうですか」
 「考え難いんですが…、フレアの信号が違うんです。明らかに小さい…」
 「本当だ、小さいね」。

 (本望医師と放射線技師との会話)

 脳梗塞の部分が一回り小さくなっていたのです。

 治療直前の画像が左、治療5時間後が右、白い部分が小さくなっていました。

 これまでの医学の常識では脳梗塞になって一ケ月半も過ぎれば多くの神経細胞は死んでいると考えられていました。画像の変化はその常識をくつがえすものです。

 本望さんにとってもこの変化は予想を越えるものでした。

 本望さんは云われました。

 「この辺に運動の繊維(神経)が走っている。ここが良くなったら まひも良くなる」

 

 翌日3月20日6時目覚め。朝一番の回診。

 「指が動くようになりました。」

 「手を開いたり閉じたり」「これもまったく出来なかったですからね。」

 「何時から出来たかの?」

 「朝、動かしてみたら動きました」

 脳梗塞になってから一ケ月半、動かなかった左手の指が一晩で動き始めました。

 「画像の所見と臨床症状があっているので治療の効果と思う」

 それは骨髄幹細胞が関係している。弱った神経細胞を元気づける働きです。脳梗塞の部分に到着した骨髄幹細胞が神経栄養因子という物質を出し傷ついた神経細胞を回復させたと云うのです。

 リハビリでも顕著に現れた。2週間後、腕の動きが素早くなり木の棒をスムースに移動できるようになっていました。3週間後、歩行も見違えるようになりました。以前は左半身マヒのためバランスを崩していましたが、もう真直ぐ歩くことができます。

 「ごくあたりまえのことが出来たら嬉しい。ほんとの赤ちゃん気分でしょうか、立って歩ければ嬉しいでしょう、そんな気分で…」

 臨床試験では骨髄幹細胞を一回だけしか投与をしません。たった一回の投与で日に日に回復していく登り口さんの姿をリアビリテーションの専門家も愕きをもって見つめていました。

 「一番の印象としては、そんなに急に変わるものか、こんな事があるか、そんな幹細胞を入れて24時間とか48時間のそんな短時間で急に機能が上がることがあるのか、それが一番の驚きでした。…」
 
(同大学リアビリテーション医学教授)

 握力の回復は明でした。

 5月治療から2ヶ月さんの左手は更に回復していました。迫力も8kgまで戻ってきました。日常の細かな動きも苦になりません。食事に添えられる海苔の袋も開けることができます。1ヶ月前口を使って割っていた箸、力強く割ることが出来ます。さらに今までは手を動かすぞと意識しないと動かせない左手が自然と動くようになってきました。

 それぞれの行動が無意識に出来るようになった。
 考えなくても動くようになった。
 前は本当にできなかった、全部、命令しないと。

 昼食の後、登り口さんは病院の周りを歩いて見ることにしました。

 「それじゃあ、難しいところに行ってみましょう。登ってみましょう。いいですね。」
 
(病院の敷地内にある小山状の地形をOTと歩いて行きました。)

 起伏のあるところでもバランスを崩しませんでした。もう一人で何処へでも歩いて行けます。仕事への復帰の希望が見えてきました。

 「歩いて自分なりに自信はついてきました。そろそろ復帰したいなと思っている。そのためにも、二ふんばりぐらいしないと…」

 今回の骨髄幹細胞による治療で登り口さんの脳にいったい何が起きたんでしょうか。

 治療前、治療直後、治療1ヶ月後の脳の断面画像です。ここは患者の脳で最も変化あった部分で、時間と共に白い部分が狭くなっている。本望さんは体内に注入された骨髄幹細胞が長時間脳の回復を促し続けていると考えています。

 初期の段階では骨髄幹細胞が出す神経栄養因子の働きで弱ってしまった神経細胞を回復させます。更に時間が経つと、骨髄幹細胞は新たな血管を造り神経細胞を回復させます。

 脳の血流を治療前と治療1ヶ月後で比較してみます。

 赤く見えるところが血流が滞っているところです。治療1ヶ月後で赤いところが減り血液の流れが良くなっていることが分かります。

本望さんは血管が新たに出来たことで血流が増え傷ついた神経細胞の回復が更に進んだと考えています。

 「今回、細胞治療をして、実は、我々が固定した(死んだ)と思っている脳の領域がまだまだ活動していて、しかも治療に反応する可能性があるという事が分かったことは大きいことですね

 1月から札幌医科大学付属病院で始まったこの骨髄幹細胞の臨床試験は、10月26日学会で最初の報告がなされました。この時点で治療を受けていたのは登り口さんを含め8名、そのうち強い運動麻痺があったのは6人です。個人差はありますがこの全員に症状の変化が見られています。登り口さんの他にも麻痺していた左手が動くようになった例があります。今後臨床試験は続けられ最大50人まで治療の効果や副作用がないかどうかについて検証されます。

 「最悪の場合だったら、細胞が勝手気ままな行動をして腫瘍になってしまうとか、そう言うことが少ないが可能性があるので、2年位スパン長さでは見て頂かないといけないと思っています。」
 (宝金 教授)

 登り口さん:8月22日退院。

 10月1日、職場に復帰。

 今、私たちは自らの体に秘められた再生力を解き明かし始めました。世界では骨髄幹細胞を使った再生医療の研究が脳や心臓以外でも進められています。
 その再生力はどれほどの力を持っているのか、答えは私たち自身の体のなかにあります。

 『心臓の再生医療について、ドイツ・フランクフルトの心筋梗塞の患者ペーター・フォルクさん(56歳)の例を挙げ骨髄幹細胞の再生メカニズムを解説していますが、割愛させて頂きました。』

 
  コーディネーター:ベティナ・ポスト小林
  ディレクター:青柳由則、阿久津哲雄、
  制作統括:阿部正敏、松本俊博
   作成・著作NHK札幌


 この内容はテレビという媒体の特質を知り尽くしたNHK札幌のスタッフの心憎いまでもの配慮がされた演出企画であって、従って、単なる報道にとどまらないで教育的使命という側面を遺憾なく発揮しています。ですから再生医療という高度な話題を全く専門外の一般の人に分かり易く言葉を選んで話しかけ解説しています。

 高い知識と経験の有る無しに関係なく、この病気に対する患者としてのかかわりと熱心さは変わらないからです。特に患者とその身内の病気に対する学習意欲と情報への渇望は並々ならないものがあります。その直向な対応に真摯に向き合っています。

 従って、この配慮はややもすると誤解を生むこともあるかも知れません。(教育効果の反応があまりに大きいから…)

 その誤解を避ける意味で私が本望 修医師をはじめ札幌医科大学脳神経外科の医師チームの「脳梗塞に対する骨髄幹細胞移植による脳循環の改善」という論文を載せました。画面では随所に今回の臨床試験で恰も初めて分かったこと・確認できたことのような場面が出てきますが、これは全て医師団にとっては既に確認事項であり、視聴者に計画通りの青図を分かり易く素人の視線に合わせて解説しているのであり全て想定通りの企画です。

 特に、ネズミの実験は以前からよく知られています。

 例えば、未来産業の胎動として【北海道新聞】が既に報道しております。


(上のプレートを押して下さい)
   実験重ね効果確信


道内でも有力な研究が育つ再生医療。動物実験段階が多いが、実用化すれば世界に羽ばたく可能性を秘めている=札幌医大脳神経外科の研究室

 数匹のラットが横に並んだベルトコンベヤーの上を走る。コンベヤーのスピードが上がった。少しずつ遅れるラットが出始める。治療後のラットは明らかに、他のラットを上回る走力を示した。札幌医大脳神経外科の本望修講師らは、何十匹もの実験を重ねて治療効果に確信を深めていった。

 本望さんの研究テーマは、脳と神経の再生。数年前、人間の骨髄細胞の中に、神経細胞へ分化する細胞が含まれていることを発見した。この細胞を培養し、脳梗塞(こうそく)や脊椎(せきつい)損傷のラットに移植すると、学習や運動能力が大きく改善した。解剖結果も、組織が再生されたことを裏付けた。

 世界中で多くの研究者が、脳や神経の再生に取り組んでいる。中でも本望さんの研究は《1》自らの細胞を使うため副作用や感染症の心配がない《2》骨髄液の採取は今でも行われており、技術的にも比較的容易−など、利点が多いという。


 道内でも有力な研究が育つ再生医療。
 動物実験段階が多いが、実用化すれば世界に羽ばたく可能性を秘めている

=札幌医大脳神経外科の研究室

  高い壁がいくつも

 実現すれば、これまでリハビリ頼りだった脳梗塞や痴ほう症、神経系のけがの治療に道を開く。だが、人間への応用はこれからだ。

 再生医療、とりわけ脳、神経の再生では、乗り越えなければならない高い壁がいくつもある。「欧米との競争に勝つためにも、数年のうちには実用化にこぎつけたい」。本望さんは現在、サルなどの実験動物で、臨床試験に向けたデータ収集を続けている。

 先端科学では、特許取得などの競争が激しい。再生医療も例外ではない。昨年11月、本望さんを含む札医大の教官らは、大学発のベンチャー企業「レノメディクス研究所」を設立した。再生医療の特許戦略など研究支援を手がけるためだ。

 北大大学院医学研究科の三浪明男教授らのチームは、民間企業の生物有機化学研究所(札幌)と共同で、軟骨再生に取り組んでいる。利用するのは、コンブなどから採取できるアルギン酸、キトサンといった「糖鎖」で作られた繊維だ。これらの物質は「体内に自然と吸収されるうえ、自然界から得られるので価格も安く済む」(三浪教授)という。実用化できれば、北海道の特産品が医療に役立つことになる。

  熱気に満ちた学会

 再生医療が脚光を浴びるようになったのは、ごく最近だ。国内では昨年5月、日本再生医療学会が発足。今年4月には、京都市に1,500人余りの研究者を集めて第1回総会を開いた。「マンネリ化した学会と違い、参加者全員が真剣で会場は熱気に包まれていた」。総会会長を務めた井上一知・京大教授は、盛り上がりに自信を深めている。

 総会には、製薬会社やバイオ関連など民間企業も60社以上参加し、展示ブースを出したりした。再生医療をてこにした新産業創出への期待の大きさをうかがわせる光景だった。井上教授は「年内にも、関西を中心に再生医療のベンチャー企業が20社ぐらいできるだろう。このうちまず2、3社でも成功例が出れば」と待望する。

 脳、神経、血管、肝臓−。道外の大学や研究機関でも、再生医療の実用化を目指す研究は加速している。北海道発の「夢の医療」実現へ、研究者たちのしのぎを削る日々が続く。

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また、本望医師のお書きになった論文を直接ご覧になれば更に理解が深まると思います。
  それを 掲示させて頂きます。

 「本人由来の骨髄幹細胞を用いた再生技術による脳梗塞治療の実用化研究
  (pdfですから詳細な説明が分かります)

 また、11月10日(日)午後1時〜4時半、後楽園会館(労災保険会館)で行われた第2回脊髄再生研究促進市民セミナーの中に「幹細胞による神経再生戦略」という講演記録や本望医師の経歴が掲載されています。ご覧下さい。

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 次に私たちが良く理解しなければならない医療組織機関、つまり病院の内部機構の問題ではないでしょうか。
 私たちは特にある問題に遭遇しないと特定の病院や医師には拘らないのが通常ですが、重い病で苦労した人たちにはそれぞれの経験による反省があります。

 その一つが病院の運営理念とその方向、存在目的、歴史、実績等々ですが、
 今回の札幌医科大学附属病院は『日本医療機能評価機構の認定病院』であることに注目することが肝要なことと思っています。

 病院のHPによると、今回の臨床試験を既に見通しをもっておられた「脳神経外科」の内容の説明が書いてあります。


 診療内容・特色

当教室は我が国初の脳神経外科学教室として昭和 29 年 7 月に開設された。北海道の地域医療を支える優秀な脳神経外科医を育成するために、大学での研修、教育を行っている。以前は到達困難とされた部位の手術法の開発、脳ドックによる無症候性脳病変の検討、 CT 、 MRI による高度な画像診断、脳腫瘍に対する集学的な治療、神経内視鏡治療、血管内手術、脳外科疾患の遺伝子診断、神経幹細胞移植による脳疾患の治療など、脳神経外科の進歩に欠かせない研究を精力的に進めている。平成 12 年 8 月には札幌医大救急部内に脳卒中ユニットが開設され、常勤の脳外科医が診療に従事している。平成 16 年から骨髄幹細胞を用いた脳梗塞の神経再生治療の臨床研究が始められる予定である。

 「札幌医科大学では、これらの要件を満たし、GCPを順守しながら治験を行っています。→◆札幌医科大学受託研究等取扱規程」という頁があります。

  「治験」とは

世界中では、もっと良い薬を作るために、いろいろな研究開発が進められています。その中から生まれた「くすりの候補」は、国(厚生労働省)が審査して、有効かつ安全と認められると、「くすり」として治療に使ったり、薬局で販売することができます。

 人に対する有効性や安全性を調べる試験を、一般的に「臨床試験」といいますが、この「くすりの候補」を、国の承認を得て「くすり」にするため行う試験を特に「治験」といいます。

 治験を実施するためには守らなければならないルールがあります。それは、「薬事法」という法律と「GCP」(Good Clinical Practice、医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令)で定められています。

 治験は、GCPで定められた要件を満たす病院で行われます。

その要件とは、

 ・医療設備が充分に整っていること

 ・責任を持って治験を実施する医師、看護師、薬剤師等がそろっていること

 ・治験の内容を審査する委員会を利用できること

 ・緊急の場合には直ちに必要な治療、処置が行えること



 この画期的な素晴らしい臨床試験が行われて状況は優秀な人材と組織に基づくこと勿論ですが、私たちが忘れてならない人類の進歩という背景環境があります。

 2007年11月15日、朝日新聞に掲載された『脳梗塞、骨髄幹細胞で治療 国立の施設が臨床試験へ』という記事をご覧下さい


………………………………………………
 脳梗塞、骨髄幹細胞で治療 国立の施設が臨床試験へ

2007年11月15日

 骨髄中の幹細胞を注射して脳の血管を再生させ、組織の再生を促すことで脳梗塞(こうそく)による後遺症の治療を目指す臨床試験を、大阪府吹田市の国立循環器病センターが年内にも始める。重い後遺症が残る重症患者を対象とし、治療効果の検証を目指す幹細胞治療は国内初となる。すでに国の承認を得ており、センター内の最終調整を進めている。

 同センターの成冨博章部長(脳内科)を統括責任者とする臨床試験は、心臓にできた血栓が血流で移動して脳の血管を詰まらせる、心原性脳梗塞の重症患者を対象とする。長嶋茂雄・元巨人監督も発症した病気だ。

 20〜75歳で、入院から7日の間に改善がほとんど見られない患者12人に対し、本人か家族の同意を得て実施する。

 発症後7〜10日の間に腰の骨から骨髄を採取。その日のうちに、骨髄単核球細胞と言われる幹細胞を分離して注射する。1カ月後に、臨床試験を直接担当しない部署が安全性や効果を評価する。

 骨髄採取を発症後7〜10日としたのは、マウスの実験や人間の研究で、この時期に神経幹細胞が損傷部位に集まるとわかったため。こうした幹細胞は血管がないと死んでしまう。骨髄単核球細胞には血管再生を促す働きがあるので、それによって神経幹細胞がうまく定着すれば、症状の改善が見込めるという。

 同センター研究所の田口明彦・脳循環研究室長は「脳出血が一番こわい副作用だが、骨髄に元々ある細胞を使うだけに安全性は高い」と話す。

 幹細胞を使った臨床試験に関しては、安全性チェックに関する国の指針が策定され、昨年9月に施行された。今回の計画は、指針に基づき、国の審査委員会を経て認められた大阪大学など最初の4例のうちの1例だ。

 

骨髄幹細胞で脳梗塞治療
………………………………………………
 そして、京都大学再生医学研究所山中伸弥教授チームが人工多能性幹細胞(iPS細胞)を生み出した研究成果が、11月21日の日本に各新聞で1面トップに掲載されました。
 渡海文部科学相に
 「科学技術・学術審議会のライフサイエンス委員会を早急に開き、研究体制について議論していただきたい」、
 「ゲノム解読の時のように、日本が走っていながら、アメリカに追い越されたような轍(てつ)を踏まないように、しっかりと研究体制を整えたい」
 と言わしめた、将に世界的な画期的快挙でした。

 この世界中が注目した大きな業績はいうまでもなく、今回の札幌医科大学附属病院脳神経外科の臨床試験は、学会、共同研究ならびにその他多くの諸機関に集約された飽くなき努力により、多くの叡智の蓄積が大量のエネルギーとなりそのうねりの一翼を担ったことが個々の実績として結実したものとして共有する人類の能力と可能性を尊敬しております。

 今回は数多い新聞ニュースなか、山中教授の提供された細胞及び神経組織の画像が掲載されている記事の一つを表示し、この頁を閉じさせて頂きます。


@
A
B
C
D
@皮膚細胞 A多能性幹細胞
B軟骨細胞 C神経組織 
D筋肉細胞
 山中教授提供によるものです。
(見やすくするために染色してある)
 iPS細胞:ヒトの皮膚から万能細胞 京大などが成功

 ヒトの皮膚細胞から、心筋細胞や神経細胞などさまざまな細胞に分化する能力を持つ万能細胞「人工多能性幹細胞(iPS細胞)」を作り出すことに、日米二つの研究チームが、それぞれ成功した。患者自身の遺伝子を持つ細胞を作り、治療に利用することに道を開く技術。クローン胚(はい)から作る同様の能力を持つ胚性幹細胞(ES細胞)と違い、作成に未受精卵を使うなどの倫理的問題を回避できる。拒絶反応のない細胞移植治療などの再生医療や新薬開発など、幅広い応用に向けた研究が加速しそうだ。

 京都大などのチームが20日付の米科学誌「セル」電子版に発表。米ウィスコンシン大などのチームが22日付米科学誌「サイエンス」電子版に発表する。

 京大の山中伸弥教授と高橋和利助教らは、体細胞を胚の状態に戻し、さまざまな細胞に分化する能力をよみがえらせる「初期化」には四つの遺伝子が必要なことを発見し、昨年8月にマウスの皮膚細胞からiPS細胞を作ることに成功。これを受け、世界の研究者がヒトのiPS細胞の開発を目指し、激しい競争を繰り広げていた。

 山中教授らは、マウスでの4遺伝子と同様の働きをするヒトの4遺伝子を成人の皮膚細胞に導入し、ヒトのiPS細胞を開発することに成功。この細胞が容器内で拍動する心筋や神経などの各種細胞に分化することを確認した。iPS細胞をマウスに注入すると、さまざまな細胞や組織を含むこぶができ、多能性を持つことが示された。

 一方、ウィスコンシン大のジェームズ・トムソン教授らは、胎児や新生児の皮膚細胞から、京大チームとは異なる組み合わせの4遺伝子を使い、iPS細胞を作ることに成功した。

 英紙によると、世界初の体細胞クローン動物、羊のドリーを誕生させた英国のイアン・ウィルムット博士は、今回の成果を受け、ヒトクローン胚研究を断念する方針を決めたという。クローン胚由来のES細胞より、iPS細胞の方が治療には有望と判断したためだ。

 一方、初期化に使う4遺伝子にはがん遺伝子も含まれ、発がんなどの危険性がある。今後は安全性の確保が研究の焦点となりそうだ。【須田桃子】

毎日新聞 2007年11月21日 2時00分


<iPS細胞>再生医療など加速 倫理・安全面で課題も

11月21日2時1分配信 毎日新聞

 日米の研究チームがヒトの人工多能性幹細胞(iPS細胞)作りに成功したことは、再生医療の実用化などへ向けた画期的な成果で、「ノーベル賞級」との賛辞も寄せられている。だが、安全面の課題は残り、1人の細胞から精子と卵子を作れる可能性があるなど新たな倫理的問題もある。

 患者自身の体細胞を使った多能性幹細胞を作る手法としてはこれまで、未受精卵と体細胞を使ったクローン胚(はい)から胚性幹細胞(ES細胞)を作る研究が先行してきた。しかし、多数の卵子を確保する難しさや、倫理的な問題を抱える。ヒトでの成功例はまだない。04〜05年には、韓国ソウル大の黄禹錫(ファン・ウソク)教授(当時)らがヒトの体細胞を使って作成に成功したとの論文を発表したが、後に捏造(ねつぞう)が明らかになった。

 今回の成果について、理化学研究所幹細胞研究グループの西川伸一ディレクターは「患者の細胞を使った医薬品開発や病気の解明などの研究が可能になり、これまでと全然違う成果が生まれる時代がくる。海外の研究者は皆、山中さんがノーベル賞を取るだろうと評価している」と話す。

 ただし、安全面での課題も残る。体細胞を「初期化」する際に使う遺伝子にがん遺伝子が含まれることや、遺伝子を導入する際に使うレトロウイルスにもがん化を促す危険性があるからだ。

 倫理面での問題も、100%回避されたわけではない。iPS細胞から生殖細胞(精子・卵子)を作り出すことも理論上可能だからだ。山中教授は「生殖細胞の分化誘導には早急なルール作りが必要だ」と話す。【須田桃子、永山悦子

<iPS細胞>ヒトの皮膚から万能細胞 京大などが成功

11月21日2時1分配信 毎日新聞

 ヒトの皮膚細胞から、心筋細胞や神経細胞などさまざまな細胞に分化する能力を持つ万能細胞「人工多能性幹細胞(iPS細胞)」を作り出すことに、日米二つの研究チームが、それぞれ成功した。患者自身の遺伝子を持つ細胞を作り、治療に利用することに道を開く技術。クローン胚(はい)から作る同様の能力を持つ胚性幹細胞(ES細胞)と違い、作成に未受精卵を使うなどの倫理的問題を回避できる。拒絶反応のない細胞移植治療などの再生医療や新薬開発など、幅広い応用に向けた研究が加速しそうだ。

 京都大などのチームが20日付の米科学誌「セル」電子版に発表。米ウィスコンシン大などのチームが22日付米科学誌「サイエンス」電子版に発表する。

 京大の山中伸弥教授と高橋和利助教らは、体細胞を胚の状態に戻し、さまざまな細胞に分化する能力をよみがえらせる「初期化」には四つの遺伝子が必要なことを発見し、昨年8月にマウスの皮膚細胞からiPS細胞を作ることに成功。これを受け、世界の研究者がヒトのiPS細胞の開発を目指し、激しい競争を繰り広げていた。

 山中教授らは、マウスでの4遺伝子と同様の働きをするヒトの4遺伝子を成人の皮膚細胞に導入し、ヒトのiPS細胞を開発することに成功。この細胞が容器内で拍動する心筋や神経などの各種細胞に分化することを確認した。iPS細胞をマウスに注入すると、さまざまな細胞や組織を含むこぶができ、多能性を持つことが示された。

 一方、ウィスコンシン大のジェームズ・トムソン教授らは、胎児や新生児の皮膚細胞から、京大チームとは異なる組み合わせの4遺伝子を使い、iPS細胞を作ることに成功した。

 英紙によると、世界初の体細胞クローン動物、羊のドリーを誕生させた英国のイアン・ウィルムット博士は、今回の成果を受け、ヒトクローン胚研究を断念する方針を決めたという。クローン胚由来のES細胞より、iPS細胞の方が治療には有望と判断したためだ。

 一方、初期化に使う4遺伝子にはがん遺伝子も含まれ、発がんなどの危険性がある。今後は安全性の確保が研究の焦点となりそうだ。【須田桃子】


     今回の再生医療の情報は患者に勇気と希望を与えました。

  それは、
 “
今までの常識がことごとく覆(くつ)がえされていくという毎日ですよねー。
 と本望医師が言われるように人類の進歩に急激な加速度が加わっていることに驚嘆します。

 今回の札幌医科大学付属病院で行った臨床試験は未だ参加できる患者の基本条件が次のように限られていますが、間もなく受け入れが広がると期待を持って信じてります。
 1 札幌近郊に在住している方
 2 「脳梗塞(のうこうそく)」になって「3週間以内」の方
 3 年齢が20歳から75歳の方

 先の頁(“失語症を考え・語る.その3”)で私が 07.5.25.の時点で申し上げた主旨の一部

 @ 回復曲線に対する疑問
 A 
脳外科“脳神経外科医による制作”のHPに載っている
 「
脳梗塞あるいは脳出血によって完全に障害されてしまった脳細胞は、どんな薬によってもあるいはどんな手術によっても、元通りに回復させることはできません。ですから、一旦完成してしまった半身不髄(片麻痺)などの症状の回復は、一般的には極めて困難なのです。」(現在は内容が幾分変わり、この部分は削除されています)という説明文を見たときのショック
 B 
tPAによる治療法の症例の公開例を視聴したとき 
 C そして、「
最近では神経細胞にもっと神経発芽を促進させる神経成長因子の研究や幹細胞(ES細胞)による臓器の発生にも近づいていることですから希望を持って次代を待ちたいと思っています。」と締め括った

  …その時点から見れば余りも急速な変化に戸惑っています。

 当然、“よしのずいからてんじゃうをみる”という狭隘な視界で接する、言わば世の中の流れに隔離された私たちの判断はややもすると偏った結論になるかもしれません。

 つい最近まで
 
 “脳溢血、脳梗塞、くも膜下出血などの脳梗塞等の壊死した部位の機能回復には一つだけ方法がある。それはリハビリだ”、
 と云われ、当事者はいうまでもなく、家族共々厳しいリハビリに耐えてきました。
 
しかし、リハビリと辛さはその訓練の厳しさより先が見えない不安が先行し心理的対応が蔑ろにされることが多く、時には心理的に屈折を惹起する虞もあると思っております。
 特に失語症者のようにコミュニケーションに欠陥がある場合は、案外知られていませんが、個人だけで負わなければならないことが多いからです。 

 つまり、リハビリには施す方と受ける方、それぞれ個人個人で対応しなければならない障害受容の問題あり、それをクリアーにするには、その是非の議論には賛否はありますが、叱咤激励という心理的圧力あります。
 私はそのような場面のお話を多く聞いております。

 ところが、

 “リハビリの世界で『冷妻嫌母』という言葉が使われます。発症当初は愛情こまやかな母親的接し方が求められますが、発症後1年2年経つと自立を模索し始めます。そのときは『冷妻嫌母』の方が自立に役立つ”…

 と言われているそうですが、勿論、仰ってる主旨は分かりますが、私にはこの言葉は嫌でなりませんでした。それは日頃の家族の在り様の問題ですから。どんな時でも、良妻賢母に越したことはありません。リハビリのために冷妻嫌母になるのは悲しい事です。

 本来原因の脳の疾患を、例えば、脳の可塑性のメカニズムにより機能障害の積極的な回復をめざすという試みは、既に限界があることは実証済みのように思われます。 

 再生医療は今後救世主になるでしょう。

 
一説によると失語症には「失語症の回復には、プラトーはない」云われますが、今後実際に再生医療により検証される可能性が高いと思っております。
 しかし、今回の場合で高遠な主題を考えるときにも、匹夫の悲しさで、畢竟、我が身に置き換えて適用したいという思いがあります。
 脳梗塞の発症から8年半の私には恐らくこの治療の恩恵を受ける資格は、障害部位の分布とその広さや現在の年齢からも、ないと思います。しかし、少しでも以前の言語表現を回復し、絵本を読んでやることも出来ない孫たちにせめて厄介ものにならないような歩行が可能であるよう再生医療の進展を祈るのみです。

07.11.30.
 


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