相次ぐ給付抑制(介護現場の「9つの困難」中)
 全日本民主医療機関連合会(全日本民医連)が発表した介護現場を取り巻く「9つの困難」−。介護保険料の引き上げや税制改正による負担増などで生活が厳しくなり、必要なサービスを受けられなくなってきていることに加え、同居家族がいる場合の生活援助の打ち切りなどの「給付抑制」も深刻になっている。

(4)現行の「支給限度額」の範囲では十分なサービスを受けられず、限度額を超えるサービス利用で、多額の自己負担が発生している

 介護保険は、介護度によって「支給限度額(保険給付の上限額)」が決められている。例えば、「要介護5」の支給限度額は月35万8300円(自己負担は1割の3万5830円)だが、この額では、朝・昼・夕に1時間ずつの身体介護を毎日利用すると、ほぼ一か月間の上限に達するという。このため、全日本民医連では、「限度額の範囲内では十分なサービスを利用できず、自己負担や家族の介護負担が増大している」と指摘している。

 寝たきりの状態で要介護5の認定を受けている90歳の女性のケースでは、夫も高齢で体調を崩したことから、夫の負担の軽減などを図るため、介護サービスを増やした。しかし、必要とするサービスの利用で支給限度額を上回り、その分の自己負担を強いられている。また、要介護認定の更新で要介護4から2に変わった90歳の女性は、糖尿病をコントロールするインスリン注射を要するが、認知症のため、自己注射ができない。訪問看護などを利用していたが、介護度が下がったため、従来のサービスを受けると支給限度額を超えることになった。しかし、その負担が困難でサービスを利用できなくなっている。

(5)家族との同居を理由に生活援助を機械的に打ち切るなど「(自治体による)ローカルルール」の適用で、利用にさまざまな制約が生じている

 要介護2の83歳の独居男性は、脳出血の後遺症による下肢の機能障害などで、室内を這(は)って移動している状態だが、半径500b以内に住んでいる長男夫婦が「同居家族」とみなされ、生活援助を受けられなくなっている。また、息子と2人暮らしの要介護2の77歳の女性は、息子が仕事のため、日中は「独居状態」になっている。複数の疾患を抱えているが、生活援助を利用できず、家事に支障を来している。

 大阪府では、独自に「Q&A」を作成し、買い物の介助や散歩などの外出支援を厳しく制約している。要介護2の91歳の女性は、寝たきりにならないよう自分で少しでも歩くようにと、買い物やリハビリを兼ねた外出支援を要望しているが、「Q&A」で不適切とされているため、自費での利用を強制されている。

 全日本民医連では、「同居家族がいる場合、家族の介護力の強弱や利用者が日中は独居状態になるなどの個別の事情を考慮せず、生活援助を機械的に打ち切る事態が広がっている。厚生労働省は昨年12月と今年8月の2回、是正を求める通知を出しているが、徹底は不十分で、『ローカルルール』による利用制約が横行している」と批判している。

(6)重度化が進むが施設入所がままならず、家族介護と介護費用の“二重の負担”が増大する中、在宅生活の維持や療養の場の確保に困難を来している

 要介護4の82歳の男性は、脳卒中の後遺症で左半身麻痺や「高次脳機能障害」があり、「廃用症候群」に進行しつつある。状態が悪化してきている中、介護者の妻も腰や膝が悪く、やっと動いている状態で介護が困難になっている。一年前に特別養護老人ホームへの入所を申し込んだが、入所はもっと先になると言われており、妻と共に共倒れになる危険性がある。また、要介護2の88歳の男性は、サービスの利用と家族介護で在宅療養しているが、施設への入所を検討している。しかし、待機者が100−200人いたり、有料老人ホームでは入居金に100万円を要するため、今後の療養に不安を感じている。

 「在宅生活の継続に困難を抱えている事例が多数に上っているほか、病院から退院を迫られながら、受け入れ先が見つからないケースなどを含め、要介護高齢者の『行き場所』や『居場所』の問題が深刻化している」(全日本民医連)

(下につづく)


更新:2008/11/12 11:32   キャリアブレイン