望ましい医療・介護制度を検討
  医師不足などによる診療科の閉鎖・縮小や相次ぐ介護労働者の離職など、日本の医療と介護が「崩壊」の危機に直面する中、全日本民主医療機関連合会(全日本民医連)は7月19日、東京都内で「医療・介護『再生』シンポジウム」を開いた。全国から約460人の医療・介護関係者らが参加し、望ましい医療・介護制度の在り方を話し合った。

全日本民医連は今年3月、▽医師や看護師などの養成数を増やす▽診療報酬を適正に評価する▽「介護の社会化」の再構築を−などの6点を具体的な要求とした「医療・介護再生プラン(案)」を発表している。

 シンポでは、全日本民医連の鈴木篤会長が同プランについて説明した後、「今の日本は、医療や介護だけでなく、少子化(育児)や教育などの『社会的共通資本』が疲弊している。これら山積している問題の全体を立て直す一環として、医療・介護を再生する視点が欠かせない」と強調。社会保障の総波及効果が全産業平均よりも高いとのデータも交え、「患者や(介護サービス)利用者、地域住民と医療・介護関係者との大同団結が求められている」と訴えた。

 シンポには、4人のパネリストが出席。埼玉県済生会栗橋病院副院長でNPO法人(特定非営利活動法人)「医療制度研究会」副理事長の本田宏氏は、現役外科医として発言した。

 本田氏は、10年連続で年間の自殺者が3万人を超え、日本が世界の「自殺大国」になっている現状を憂慮し、「国は財政赤字を口実にしているが、その責任は医療や介護、教育にあるわけではない。無駄な公共事業など“既得権益”を保護したままで国民に負担を求める政策では、貧困や格差が拡大するだけ。税金の使途に対する国民の信頼を回復しながら、医療や介護を充実させなければならない」と指摘。また「国民が正しい(政策の)選択をするには、正しい情報が欠かせない」として、国による“情報操作”に注意する必要があるとした。

 同じ医師の立場からは、全日本民医連副会長で勤医協札幌病院長の堀毛清史氏が、北海道の地域医療の実態を報告。道内では、診療科の縮小・廃止や医療機関の倒産など医療崩壊を象徴する深刻な事態に陥っているものの、住民や医療関係者、地元行政が連携して地域医療を守る新しい運動が各地で起きていることを紹介した。

 医療・介護の財源確保では、立正大法学部教授で税理士の浦野広明氏が日本国憲法の視点から解説した。

 浦野氏は「憲法は、国の法秩序の頂点にある根本法で、平和のうちに生存する権利と社会保障を重視している」と説明。税金の取り方と使い方について「憲法が、税金は能力に応じて支払うもの(応能負担原則)としており、国税、地方税、目的税といえる社会保険料などは、すべて応能負担によって課すことになっている。その使い道も平和と社会保障のために使われることを前提にしている」と指摘した。その上で、社会保障目的税化としての消費税増税の動きに対して、「政府税制調査会などの税制論議は憲法の視点が全く欠けている」と強く批判。「国民が安心して生存できるためには、憲法の理念に合致する税・財政の実現が重要」と強調した。

 今年1月に設置された「社会保障国民会議」などの委員を務める慶大商学部教授の権丈善一氏は、「医療を社会保険で運営しているドイツやフランスに比べ、日本では社会保険料の負担が相当に低い」と指摘し、事業主の負担増を含めた社会保険料の引き上げで医療を充実させる方向を示した。また、社会保障に回ることが前提であれば、消費税の引き上げも検討する必要性があるとした。

更新:2008/07/22 09:42   キャリアブレイン